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あなたを救うサージェリー

プロジェクトタイプ

イラスト

───紅い月夜は、彼等を嘲笑っていた。
集団自殺行動によってパニックとなった街の悲鳴が、鋭いサイレンの音が、煩く哭いている。そんな劈く不協和音が、手術室の中に居ても聞こえてくる。

「〜〜ッ、ぅ、あ……ッ」

心臓がひとつ跳ねる度に、じわりと体内の腫瘍がその形を変えて内臓を握る。ぐらぐらと揺れ、潤む視界を必死に保って……彼は唇を噛んだ。
動き続けている右手のメスが、意識を逸らした瞬間に自身の雁首目掛けて伸びてゆく。それを寸前で静止し、深く深呼吸───など腫瘍に侵された肺で叶う筈もなく。
慌ててメスを握り直す。そして、それを目の前に横たわる緋色に当てて───。
……再発した《スアサイダル症候群》は、着実に彼……ルミエール・シュヴァリエの心身を蝕んでいた。鉱石の腫瘍が与える痛みと襲いかかる希死念慮がもたらす苦痛は計り知れない。
それでも彼は、その手を止める事を許さなかった。

「……ッ、僕しか、居ないんです……ッ!あなたを救うのは、僕しか───!」

かたかたと惨めに震える右手でドレーンチューブを手繰り寄せると、それを【彼女】の心臓部へ差し出す。紅い血液が途端に溢れ、【彼女】の体に巣食う「異常」を取り除く。

───ピッ……。

電子の波が微弱に、だが確かに波打つ。
血圧が徐々に上昇する。血液のように赤く叫んでいたバイタルが、青い光を取り戻す。
嗚呼、帰ってきた。
【彼女】は、帰って来たのだ!

「……よ、かった……」

汗を滲ませながら、ルミエールは静かに微笑んだ。
その身体が、重力に従って下へ落ちる。
……それと、手術台の上の【彼女】が目覚めたのは、ほぼ同時だった。
【彼女】───病魔《スアサイダル》の身体は、異物に対しての代謝が早く、耐性が高い。
麻酔から覚醒した彼女はゆっくりとその場で起き上がると……そこで、崩れ落ちる衣擦れの音を聞いた。

「……ルミエール?」

掠れた声でそう問いかけるも、応える「彼」はもう居なかった。
見れば、彼は笑みを貼り付けたまま……その場に倒れていたのだ。

「……莫迦が。私を救い、お前が死んでは意味が無いだろう…。待っていろ。必ず救う───お前を死なせなどするものか。……私はクレマリー。クレマリー・ルーヴィル……医師だからな」

彼女はメスを握る。
決意を胸に、彼と向き合った。

「───さぁ、オペレーションの時間だ」

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